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どうなる?リニア中央新幹線-その必要性,採算性,安全性を科学の目で考える

『日本の科学者』2016年9月号に企画された特集「どうなる? リニア中央新幹線」をここにeマガジンNo.22として公開する.この特集の4論文と同月号のSALON欄に掲載された関連論文を第1章~第5章に配置し,一つの冊子とした.
2016年1月,リニア中央新幹線の工事が品川駅で本格的に着工された.2027年に品川-名古屋間の開業後,2045年に大阪まで伸びるとされている.6月1日には,大阪ルート開業を8年程度前倒しするとの意向が表明され,安倍首相も公的資金による支援を表明した.
この動きのなかで2016年6月11日,岐阜市でJSA東海地区シンポジウムを開催した.
そこでは,「リニア企画の意義と問題点を事前評価する」橋山禮治郎(アラバマ大学名誉教授),「新ターゲティング・ポリシーとインフラ輸出-安倍政権の経済政策の検討」森原康仁(三重大学准教授),「南アルプスの自然とリニア新幹線」佐藤博明(静岡大学名誉教授),「トンネル掘削による地下水の湧出量-リニア新幹線用に南アルプス地下にトンネルを掘ると」林弘文(静岡大学名誉教授),「ストップ・リニア!訴訟のゆくえ」岡本浩明(弁護士)の,計5本の報告が行われた.本特集はその報告である.
橋山論文は,リニア企画について,「筆者なりの事前評価」を試みるとしたうえで,その計画が,全国新幹線整備法の三つの目的のすべてに合致していないこと,当初から超電導磁気浮上方式が独善的に決められ,採算性,安全性,環境保全性に対する真摯な検討が不十分であったことを指摘する.
森原論文は,第二次安倍政権の「新ターゲティングポリシー」との関係でリニアの位置づけを明らかにし,新自由主義のもとでいったんなりを潜めた1990年代以前のターゲッティングポリシーがあらためて安倍政権で焼き直され,「海外成長市場の取り込み」として,海外展開支援,対内直接投資の拡大,通商協定に加えて,インフラシステム輸出がとりあげられていることを報告している.
佐藤論文は,南アルプスが約100万年以来,海底から急速隆起し,日本列島の誕生にかかわる地球史的な価値を持つ山塊であり,2014年に正式にユネスコエコパークとして登録されたにもかかわらず,山体崩壊のリスクや残土置き場の問題,水量の減少や水環境,導水路トンネルの設置にともなう懸念,作業用のジュキヤ作業用道路などの人口構造物による懸念は解消されていないとする.
林論文は,大井川の上流に設置される導水路トンネルを流下する水量を,流体力学の基礎の上に地下水工学の手法を用いて試算する.そこでは定常状態でさえも毎秒2トンの湧水が予測されるとする.
岡本論文は,国土交通大臣によるリニア中央新幹線工事実施計画に対する認可処分についての2016年5月の沿線住民による東京地裁を舞台にした認可取消訴訟の見通しについて紹介する.そこでは,住民の原告適格が争点となり,被害を丹念に主張・立証していくことが必要であるとする.
本特集は,<リニア中央新幹線>の経済的背景から自然環境等への影響まで目配りし,さらにこれからの裁判の見通しについて明らかにするものである.読者が本特集を通じて,リニア新幹線の<真実>を見抜き,関心を寄せていただくことを期待したい.
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