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『初等・中等教育における原発・「放射能」教育の問題点とその克服』


 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に起因した福島第一原子力発電所(以下・福島原発)事故で,これまで政府や電力会社が喧伝し推進してきた原発の「安全神話」は,崩れた.そして福島原発は,事故から2年6カ月後の今日でも1号機から4号機まで,どのようになっているかも明らかでなく,放射性物質で汚染された地下水や冷却水も制御できず,現在の原発の状態はとても安定した状態とはいえない.
 しかし,2011年10月,文部科学省は,財団法人日本医学放射線学会等の監修で新しい「原発安全神話」を学校教育で進めるために小学生,中学生,高校生別の「放射線読本」を作成し,児童・生徒の全員に配布した.その上,児童・生徒用の「放射線読本」ごとに【教師用解説書】を作成して「総合的な学習の時間」を使って教えることを要請している.
 ところが,原子力発電や原子爆弾を理解するための知識や理解の程度を現在の大学生について調べたところ,「元素」「原子の構成粒子」「同位体」などの必要な用語を説明できない学生が多数いることが分かった.大学生が原子力発電や原子爆弾を理解するための基礎的な知識の欠落は,学校教育を縛っている学習指導要領に原因がある.
 例えば平成10年改訂の中学校学習指導要領に基づく「理科」の教科書では,原子の構造も陽子や中性子や放射線についても学ぶことにはなっていない.原子力エネルギーや原発の「長所と短所を考察させる」ことになっている教科書では,その「短所」をまったく触れていなかつたり,本文の中ではなく脚注で説明しているものもある.そして,教員用・教科書指導書には,「危険な放射線や放射性物質が外に漏れないように何重もの防護をしている」など安全神話を強調している.
 本論では,教科書教材や特別活動の取り組みを通して,原子力エネルギーをどのように教えられてきたかについて考察し,学校教育における原発・原爆をどのように教えるかについて提案する.
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