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『遺伝子操作時代の権利と自由』まえがき


 本稿は私が翻訳出版した『遺伝子操作時代の権利と自由』(責任ある遺伝学協会編、緑風出版、2012年、以下『権利と自由』と略記)の主要な論点をその問題点も含めてまとめたものである。原題は、そのまま日本語に訳せば『バイテク時代における権利と自由』(Rights And Liberties In The Biotech Age)である。原書の出版は2005年でやや古い本であるが、遺伝子組み換え技術(遺伝子工学)が米国の社会にどのような影響を及ぼしているかを中心に論じているので、先進的な技術の社会への影響が米国より約10年遅れて現れるといわれる日本には、本書はタイムリーな内容となっていると思われる。
 編者の「責任ある遺伝学協会(Council of Responsible Genetics : CRG)」は遺伝子工学とその応用に批判的な科学者、ジャーナリストおよび社会運動家たちを主要な構成員とする市民団体で、米国市民からの寄付と機関紙Gene Watchの販売収入を財政基盤としている。その他、数冊の書物を同協会の編集で発行しており、またGene Watchはそのホームページ(http://www.councilforresponsiblegenetics.org)で全文が公開されている。
 これまでのバイオ技術の発展を振り返って見れば、まず1953年にワトソンとクリックによりDNAの二重らせん構造が発見され、1973年にコーエンとボイヤーにより遺伝子組み換え技術が完成された。そしてさらに2003年にはヒトゲノム解読が完了した。著者たちはこのようなバイオ技術の新たな発展を「遺伝子革命」と呼び、それによってこの技術はハイバイオテクノロジー(high biotechnology)へと発展したという。
 しかし、著者たちは、ハイバイテクはDNA鑑定による冤罪者の救済という成果を生んだ以外は、人間社会に有害な作用を及ぼしているという。すなわち、①遺伝子組換え食品は、それを食べた人間に健康被害を引き起こし、②バイオ企業による種子特許、遺伝子特許などの生命特許は、先住民族の権利を剥奪・侵害し、③遺伝子検査は、それによって遺伝病や遺伝性疾患の原因遺伝子を持つことが判明した人たちを遺伝子差別の被害に追い込んでいるのである。また、ハイバイテクが人の生殖細胞の遺伝子改変を企図し、それが将来技術的に可能となれば、身体的・知的能力の向上した遺伝子改変人間が生まれるだろう。こうして著者たちは、「遺伝子革命」は人間の遺伝子の完全性を損なうものであるとみなし、10条からなる「遺伝子権利章典」を提案した。その条文は、http://biohazards.jp/rightsandliberties.htmのサイトで見ることができる。『権利と自由』は、これらの条文の詳細で専門的な解説である。このeマガジンをご覧になって興味を持たれた方はぜひ『権利と自由』を手にしていただきたい。
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