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日本科学者会議は2003年5月24、25日の両日、東京都内で第35回定期大会を開催しました。  (PDF版

大 会 宣 言

 「自然と社会の真理を追求し、人類の進歩と人民の生活に科学を役立てることは、科学研究にたずさわるものの心からの願いである。しかし、今日の世界情勢と日本の現実は、このような科学者の願いに全く逆行している。」・・・これは、1965年12月4日の日本科学者会議創立宣言の冒頭の一節である。私たちは、この宣言を発して以来37年半にわたり、この願いを実現すべく努力を重ね、国の内外に多くの足跡を残してきた。にもかかわらず、21世紀も2年半を過ぎようとしている今日、世界と日本の情勢は私たちの願いに全く逆行しているように見える。
 2001年9月11日に「同時多発テロ」が起こされてから、米国はアフガニスタンへの「報復戦争」、そしてイラクへの侵略戦争を容赦なく推進してきた。とりわけイラクに対しては、フセイン政権の「大量破壊兵器」保有を攻撃理由としながら、自らはクラスター爆弾、デージーカッター爆弾等のまさに大量破壊兵器を実戦で使用し、無差別殺戮を繰り返した。このことは、まさに“蛮行”以外の何ものでもないと言わざるを得ない。米国のこのような“蛮行”の背景には、ブッシュ政権が2002年9月に策定した「先制攻撃戦略」があり、今後その矛先がシリアや朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)等別の国に向けられ、新たな戦争が起こされないよう、平和を希求する全世界の人々が連帯して監視を強める必要がある。米国は、北朝鮮に対しても、1994年6月の米朝合意に違反する核兵器開発を推進しているとして経済制裁を進め、さらには武力による問題解決の意向もちらつかせて、軍事的にも包囲態勢を固めている。北朝鮮の核兵器開発は、我々も憂慮するものであるが、この問題の解決は武力でなく、平和的に行うべきである。一国の政治体制が非民主的である場合、その体制の変革はその国の人々が行うべきことであり、外国の軍隊が国連憲章をふみにじってまで武力で行うことは決して許されない。
 戦争放棄の平和憲法を持つ国として日本は、このような国際平和の危機打開に大きな役割を果たすべきであるが、小泉内閣の米国追随は目に余るものがある。小泉内閣の戦争する国作りは、海外への自衛隊派遣、「有事立法」の制定、日の丸・君が代の強制、靖国神社への首相・閣僚らの公的立場での参拝、「愛国心」の強要等を目指す「教育基本法」の改悪、そして第9条を中心とする平和憲法の改悪等々の形で急ピッチで進められている。他方、小泉内閣は、経済・教育・医療・福祉等の各分野で全面的な「構造改革」「規制緩和」「自由化」「民営化」路線を推進している。国立大学民営化の一里塚とも言うべき「国立大学法人法案」は、本会を含め多くの大学関係者・国民の強い反対の中で、国会で強行成立がはかられている。大学の自治・学問の自由を侵害する危険なこの法案は、また、前述の戦争する国作りの動きとも決して無関係ではない。大学政策も含む政府の科学・技術政策は「競争的な研究開発環境の整備」「任期制の広範な普及」「効果的・効率的な資源配分」などを柱としており、このような路線が進められるならば、日本の科学・技術、学問のゆがみはいっそう拡大し、自主的・総合的な発展が減殺される懸念がある。
 以上記したような、凶悪な戦争・テロの繰り返しやこれへの協力政策の推進、科学・技術の反社会的利用、科学の自主的・民主的発展の阻害などの動きは人類の未来を暗いものにする危険があるが、そうした動きに反対し、人類の未来を平和な明るいものにしようとする諸国民の運動も大きく前進している。米国のイラク攻撃の前には「60カ国で1千万人以上」と報道された反戦運動の波が地球を駆け巡り、国連は遂に武力によるイラク攻撃を許さなかった。米国の「先制攻撃戦略」には核兵器の使用も含まれているが、人類は「核兵器の3度目の使用」は許していない。この点でも、2000年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議で米国を含む核保有国が「核兵器の完全廃絶を達成する明確な約束」に同意したことの意義があらためて確認できる。今こそ、核兵器廃絶を世界平和の緊急な中心課題とし、その実現をはかることによって人類の平和的な未来を切り開くことが必要であるが、この課題達成は、国際世論の高揚如何により「可能となり得る」との認識と展望が重要である。
 国内においても、戦争する国作りに反対する闘いは、草の根から幅広く進められている。メーデーでも憲法記念日でも、全国各地で多数の人々が有事法制反対等の唱和を行い、衆議院段階での与党3党と民主党との「修正」合意に対しては、本会を含む多数の団体・個人が強い抗議の意を表明した。国立大学法人法案反対の運動も急速に盛り上がっており、世論喚起が進んでいる。無駄で地元住民に役立たない「公共事業」にストップをかける長野・島根・徳島等の地方自治体での住民運動の前進や、各地の大気汚染訴訟の勝訴、熊本の川辺川利水訴訟の勝訴等は環境保全を願う人々に勇気と希望を与えた。私たちもこのような国民諸階層とともに闘い、それぞれの課題に科学者組織としての固有の役割を発揮することが求められている。
 本会は、はじめに記したように、創設以来一貫して、日本の科学の自主的・民主的・総合的発展を願い、科学者としての社会的責任を果たすため、国内的・国際的な諸課題への取り組みを学際的に進めてきた。私たちはこのような本会の伝統と実績に誇りを持ち、前記のような情勢から生ずる多くの困難はあっても、それらを共同の力で乗り越えるため、互いに信頼し、励ましあい、手を取りあって前進しよう。そして、この伝統と実績、私たちの高い志を次世代の研究者に語り伝えていこう。時代はまさに、本会がこれまでにも増してその役割を果たすことを求めている。21世紀における日本の科学者の役割を大いに発揮し、会則に規定されているように、「(会の目的を果たす)役割を将来に向けて担っていく科学者」、また「広く科学的精神をもった青年」の育成につとめていこう。
2003年5月25日
日本科学者会議第35回定期大会