JSA

☆日本科学者会議はアメリカのイラク攻撃開始に抗議し、以下の事務局長談話を3月20日に発表、
  在日米国大使館気付米国大統、在日英国大使館気付英国首相、小泉首相、川口外相宛に送付
  し、またその旨
  報道関連各社に報告致しました。

米ブッシュ政権の無法なイラク攻撃に満身の怒りをもって抗議する

 米東部時間19日午後9時過ぎ(日本時間20日午前11時過ぎ)、イラク問題の平和的な解決を望む世界諸国民の願いを踏みにじり、遂に米ブッシュ政権はイラク攻撃を強行した。「科学の反社会的利用に反対し、科学を人類の進歩に役立たせるよう努力するとともに、国内国外の平和・独立・民主主義・社会進歩・生活向上のための諸活動との連帯をつよめ」(会則第2条)る日本科学者会議は、満身の怒りをもって米ブッシュ政権の蛮行に抗議する。

 米ブッシュ政権によるイラク攻撃は米東部時間17日午後8時(日本時間18日午前10時)の全米向け大統領演説にもとづくものである。しかし、イラクのフセイン大統領と息子2人の48時間以内の国外退去を要求し、これを拒否すれば軍事行動に踏み切ることを一方的に宣言したこの演説自体が、問答無用の野蛮で乱暴なもの以外の何物でもない。

 米ブッシュ政権は今回のイラク攻撃の根拠として国連安全保障理事会の決議678、687および1441を挙げている。しかし、これらの諸決議は、今回の米ブッシュ政権によるイラク攻撃を認めるものでは断じてない。とりわけ昨年11月に米国も含め全会一致で採択した最新の決議1441は、イラクが国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)による即時、無条件、無制限の査察を受け入れること、イラクによる査察の妨害や決議1441への不遵守や非協力があった場合は、重大な義務違反として主文11および12にしたがって国連安保理に報告され、国連安保理のみが国際平和と安全を確保するため、すべての関連決議の完全遵守の必要性について議論することを定めたものである。

 現在の事態は決議1441にもとづいて昨年11月末以来査察が進められ、7日に国連安保理で行ったUNMOVICのハンス・ブリクス委員長の追加報告に示されているように、現場の検証や文書の分析、関係者の聴取を通じて結論を導くにはなお、「数年でも数週間でもない、数カ月が必要」という段階にあったのである。だからこそ15日に発表された仏独ロ3国共同宣言は、「査察が成果を生んでいる」と評価し、査察の継続を求め、「現状のもとで、査察プロセスの放棄も武力行使も正当化するものは何もないことを再度強調」したのである。

 結局のところ米ブッシュ政権は、仏独ロなどの道理ある主張の前に国連安保理で対イラク武力行使に道を開く新決議案採択の多数派工作に失敗し、イラク攻撃を強行したのである。新決議なしのイラク攻撃は、コフィー・アナン国連事務総長が10日に指摘したように、「国連安保理の支持がない軍事行動は国連憲章に反する」ものである。また、わが国の国際法研究者が18日に声明したように、国連安保理による新たな決議なしの対イラク武力行使は国際法違反でもある。それ故にこそ米英両国政府は、対イラク武力行使に道を開く新決議案の採択に最後まで固執したのである。

 18日の大統領演説はまた、米国などが軍事行動を始めても、イラク国民は標的にはならないとも述べている。しかし、昨年末および今年2月に国連は、米軍によるイラク攻撃の際のイラクの被害とそれに対する国連の緊急人道援助計画を策定している。これによれば、食糧不足やインフラ破壊により国内避難民が200万人、周辺国への難民流出が60万〜145万人に上ると想定されている。そもそも近代戦争において犠牲者の大半は非戦闘員である女性や子ども、老人や体の弱い人びとであり、一般市民が犠牲にならない戦争など空念仏でしかない。それは米ブッシュ政権等によるアフガニスタン侵攻や、1991年の湾岸戦争からも明らかである。

 18日午後、小泉内閣が米ブッシュ大統領演説を支持したことも、日本科学者会議は絶対に容認できない。太平洋戦争の痛切な反省の上に立って制定された日本国憲法は、その前文で、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とし、第9条では、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」としている。この立場に立つならば、米ブッシュ政権等によるイラク攻撃は、絶対に容認できないはずである。国務大臣として尊重し擁護する義務を負っている平和憲法の立場を小泉内閣がかなぐり捨て、かつイラク問題の平和的解決を望む多数の国内世論に背を向けて「日米安全保障条約」という名の軍事同盟を日本国憲法より優先させたことに、私たちは驚きを禁じ得ない。日米安保体制の危険な側面を、国民はまざまざと見せつけられたに違いない。

 日本科学者会議は、米ブッシュ政権にイラクに対する軍事行動の即時停止を求めるとともに、今や「ならず者」政権としか言えなくなった米ブッシュ政権に無批判に追随して対イラク武力行使を容認した小泉内閣の総退陣を要求する。私たちは、イラク問題の平和的解決を求める世界の諸国民および国内の諸組織・個人と連帯し、この目的を達成するまで奮闘することをここに表明する。

     2003年3月20日
                                   日本科学者会議事務局長 野口邦和