JSA

◇以下の声明は、2001年12月8日付朝日新聞大分版で報道されました。

2001年12月7日
日本科学者会議大分支部

すべての暴力に反対し、真に平和な国際社会を

 テロは決して許されない
 本年9月11日(現地時間)、民間航空機をハイジャックして、世界貿易センタービル、アメリカ国防総省に体当たりさせる、という前代未聞の国際テロ事件が起こった。テロリズムは、人命を軽んじ、暴力によって自らの主張を押し通そうという行為であり、人類の真摯な諸活動によって真理に到達しようという科学者の立場からも到底許すことができない。とりわけ、今般のテロは、何千人もの世界市民を殺戮し恐怖に陥れたもので、その罪は計り知れない。日本科学者会議大分支部は、今般のテロ行為の首謀者に対して、強い憤りをもってこれを糾弾する。

 テロは戦争によっては絶対に根絶できない
 これに対してアメリカ・イギリス両国は、10月7日に、報復と称してアフガニスタンに対する軍事爆撃を開始した。爆撃はいまだ継続されており、この爆撃によって、一般住宅、病院、老人施設などが破壊され、アフガニスタンの市民や現地のNGOの職員らが死亡するなど、一般人に犠牲が出ている。また、爆撃によって90万人の難民が餓死の危険にさらされるということが国連から指摘されている。この間の事態は、戦争というものが、血で血を洗う悲惨な結果をもたらすものであるということを日々私たちに見せつけている。
 この両国による行為は、国際法に違反する疑いが非常に強いということをまず指摘しなければならない。アメリカは、あるときは自衛権、あるときは報復として、自らが行う戦争を正当化している。しかし、そもそもテロ行為は、戦争ではなく、国際犯罪行為であって、自衛権の発動の根拠にはならないし、自衛権が発動されるとしても、必要最低限の反撃を超えてなされる場合には、もはや自衛の範囲を超えると言わねばならない。また、1970年国連総会友好関係宣言「武力不行使」原則第6項は、武力復仇行為すなわち報復戦争を禁止している。これらの点を考慮すれば、米英による爆撃は国際法上の根拠が非常に薄弱であると言わざるを得ない。
 また、報道によれば、海兵隊の投入による地上戦も展開されている。米軍はまさに、日出生台において、地上における実弾射撃の訓練を行っていたのであり、美しい日出生台の大地における訓練の成果が、結果として今般のいわゆる報復戦争に活かされることになったと考えると、大分県で生活・研究する者としては例えようのない怒りを感ずる。
 10月9日付で発表された「日本の憲法研究者の緊急共同アピール(http://www.jca.apc.org/~kenpoweb/appeal.html)によれば、「このような不当にして違法な武力行使が、アメリカを先頭とする経済的軍事的に有力な諸国によって行われ続けるならば、それは暴力に対する暴力の際限なき連鎖と暴力の拡大を生み出すだけである。今回のテロ行為に対処するには、直ちに武力行使をやめ、国際犯罪として証拠に基づき容疑者を特定し、国際社会の協力で身柄を確保し、人道に対する罪として国際法廷による厳正な裁きに付すべきである」と指摘されている。日本科学者会議大分支部も、この憲法研究者たちの見識を高く評価し、支持するものである。
 そもそも、国連憲章が国際紛争の解決に武力を用いることを禁止したのは、戦争によっては真の解決をはかることは絶対にできないという歴史の教訓を受けたものであり、世界の人民の知恵の所産である。戦争をはじめとする暴力の絶え間ない連鎖を断ち切ることこそが国際平和と安全保障にとって必要なのであり、戦争によって今回のテロ事件の首謀者たちを殲滅したとしても、新たなテロの種がまかれるだけであって、テロリズムそのものを根絶することにはならない。そのためにも、一刻も早く武力攻撃は中止されるべきである。

 憲法違反の「テロ対策特措法」
 一方、日本政府は、この米英の報復戦争をいち早く支持し、「テロ対策特措法」なる法律を成立させて、海上自衛隊の護衛艦や補給艦などをインド洋に派遣した。この法律では、自衛隊が、米軍などの外国軍隊の軍事行動に、補給、修理、整備、医療、武器・弾薬・人員の輸送などの「協力支援活動」を行うこととしている。しかし、武力行使はこのような活動なしに行うことはできず、当該活動は軍事上は交戦者の立場に立つことを意味することから、それは軍事行動の不可欠の一環であり、明白な参戦行為である。すなわち、「テロ対策」の名のもとに、自衛隊を戦後初めて軍事行動に参加させるのがこの法律の中身であり、憲法9条を堂々と踏みにじるものである。
 小泉首相は、このような憲法上の疑義に対し、「戦闘地域には行かない、武力行使はしない、だから憲法に違反しない」と述べているが、憲法9条に言う「武力の行使」とは、戦時国際法の適用を受けない事実上の戦争行為を意味するのであって、具体的な戦闘行為に限定されるのものではない。したがって、具体的に戦闘が行われている地域に行かなくとも、戦争あるいは事実上の戦争(武力の行使)に参加する行為は憲法が禁じているのである。また、上述した法律の内容は、NATOが集団的自衛権の行使として挙げているものと同じであり、このことを考慮すれば、自衛隊そのものの合憲性に対する疑義を脇に置いたとしても、政府自身が憲法上禁じられていると考えているはずの集団的自衛権の行使そのものである。

 日本が国際社会でとるべき態度
 いま、日本が行うべきことは、テロに対する報復を理由にした殺戮行為に手を貸すことではなく、国際社会の責任において、国際刑事法に則って対処するよう全世界に呼びかけることをつうじて、テロリストたちを国際的に包囲し、地球上から根絶する先頭にたつことである。また、テロリストが再生産される土壌そのものを根絶するためには、日本国憲法が確認している「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」を全世界の共通の認識とし、軍事力によらない、人間に対する総合的な安全保障を全世界の人民の理性の力で構築することが必要である。