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「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」に対する見解

2001年10月15日     日 本 科 学 者 会 議 

 去る9月27日、文部科学省は「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」(以下、「中間報告」)を公表した。これは独立行政法人通則法を前提としながら、いわゆる「遠山プラン」の「民間的発想の経営手法の導入」を図り、「国民に支えられ最終的に国が責任を負うべき大学」として国立大学を法人化すること(「国立大学法人」(仮称))を目指しており、大学のあり方を根本的に変える重大な内容を含むものである。
文部科学省は、「遠山プラン」を出してから数カ月を経ずに次々とその具体化に向けた手を打っている。国立大学の統合・再編では、すでに6ケース(10月10日現在)で合意をみており、うち2ケースは概算要求化されている。また、国立大学独立行政法人化への突破口として、教員養成大学・学部の統廃合具体化の構想が10月23日には示されるといわれている。一方、「トップ30」分野への重点投資では、一般会計への概算要求で422億円を計上するとともに、国立学校特別会計の概算要求も「世界水準の教育研究環境の確保と大学(国立大学)の『構造改革』への積極的対応」に大幅にシフトしている。「中間報告」は、「遠山プラン」の三本柱の一つである「新しい『国立大学法人』への早期移行」に向けた制度設計を取りまとめたものであり、大学の設置形態、組織運営、教育研究のあり方の基本を転換しようとする"大学構造改革"プランである。文部科学省が「遠山プラン」を契機に強引なまでにトップダウンで大学"構造改革"を推進し始めたことに注意を払う必要がある。


 第一の問題点は、大学を「日本経済活性化の起点」と位置づけているように、日本の高等教育を、真理探求や人類の知の継承、政府・財界の知的監視、国民・人類の平和・福祉・健康への貢献から国家戦略・企業利益優先の研究・人材育成に直接奉仕させる機関とすることを露骨に意図していることである。
 第二の問題点は、「中間報告」が「遠山プラン」に組み込まれたことにより、地域を越えあるいは公立大学をも巻き込む可能性を含んだ国立大学の統合・再編が、国立大学の独立行政法人化問題を超えて先行することになり、文教政策として「一県一大学の原則」を放棄する姿勢をも示していることである。戦後、地方国立大学が地域社会で果たしてきた役割、すなわち、教育機会の提供、地域の文化や産業への貢献などが大きく後退することになりかねないのである。
第三の問題点は、「トップ30」は国公私立大学を通じた問題であるが、たんに422億円の重点配分にとどまらず、国立学校特別会計施設設備費等や私学助成等もこれらの大学に重点的に配分されるため、私学助成のあり方も大きく変わることになる。これは文部科学省の煽る「競争的環境」の下で、大学間に「勝ち組」「負け組」をつくり、国公私立大学を選別・淘汰の対象にして全体的な再編を図ろうとするものである。
第四の問題点は、「中間報告」が学長を中心とし学外者を含む「役員」組織を導入するとともに、多数の学外の有識者を含む「評議員会(仮称)」「運営協議会(仮称)」「役員会(仮称)」などを配して、学長による最終的な意思決定のシステムをつくることを提案している。これは学長によるトップダウンの大学運営のための仕組みであっても、大学にはなじまないものである。また、中期目標・中期計画の文部科学大臣による策定、認可や中期計画の達成状況の文部科学省「国立大学評価委員会(仮称)」による評価及び評価結果の資源配分への反映などは、大学の自治的・自立的運営を侵すものである。
 第五の問題点は、学生納付金や病院収入等が大学の自己収入になるので、授業料等の学費が大幅に値上がりする可能性があり、大学や場合によっては学部でも異なる学費になりかねない。これは公私立大学にも波及して受益者負担の悪循環を招くことになり、「教育の機会均等」や国民の「教育を受ける権利」の侵害という重大な問題を生じることになる。


 このように、「中間報告」は、大学の教育・研究と社会との関係性を、国家・大企業との直接的で従属的な関係に一挙に転換させようとする意図をもちながら、私立・公立大学や短期大学のすべてを巻き込んだ、大学の全体的な競争的淘汰を加速しようとするものである。
 こうした政策は、憲法・教育基本法・教育公務員特例法やユネスコ高等教育宣言に反する方向であるばかりでなく、先進諸国でも類をみない大学への直接的国家管理と教育・研究の国家動員のシステムづくりといわざるを得ない。
 「知の世紀」といわれる21世紀に、大学がその創造・継承の拠点として、社会に対する固有の責任を果たすには、「学問の自由」、「大学の自治」、学生の「教育を受ける権利」の保障、および公的財政支援の拡充がますます重要であり、それはユネスコの最近の高等教育に関する勧告や宣言にみられるように、国際的趨勢である。日本科学者会議は、このような観点から、それらに逆行する「中間報告」をきびしく批判するものである。