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日本の大学教育の発展のために、非常勤講師の正当な処遇を求める

日本の大学・高専の非常勤講師依存率は、格差安上がり教育の中で増え続け、今日では非常勤講師雇用件数は専任教員数とほぼ同数にまで達している。この比率は、新制大学発足当初の約2倍半である。単位数でも私学では40%、短大では数10%を非常勤講師に依っており、非常勤講師料を主な収入とする専業非常勤講師に限っても、各キャンパスで見る教員の4人に1人、短大の場合は43%を占める。 これらの数値はいずれも欧米よりはるかに高く、中南米諸国など以上のレベルにある。 しかも平均して1コマ25,000円/月前後(ボーナスなし・講義準備費自弁)、馘首勝手の極端な低賃金、無権利の状況におかれている。
このような状況は、ユネスコの「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」が、「高等教育の進展における教育職員の決定的な役割と、人類及び現代社会の発展に対する彼らの貢献の重要性とを認識し」(前文)、「公平でいかなる差別もない雇用の条件を確立しなければならない」(第40条)とし、非常勤の場合は、「常勤で雇用される教育職員に比例して同等な報酬を受け、かつ相当する基本的雇用条件を享受しなければならない」(第72条a)という規定に、大きく離反している。
その結果、貶められているのは日本の高等教育そのものに外ならない。具体的には、イ)カリキュラムの作成に非常勤講師が関与できず、新学期が迫った時点で、しかも1年辞令で委嘱されるため、科目間の有機的構成に欠けた教育にならざるを得ず、 ロ)悪条件と闘っている非常勤講師たちの無償の貢献にもかかわらず、研究室もなく時間毎に次の大学に移動せざるを得ないため、学生が質問に来ても居ないなど、教育効果を上げにくい。 ハ)雇用の大きな部分を、このようなパート的なそれに解消しているため、専任採用数を狭め、若手・女性研究者の就職難が倍加している。 ニ)しかも政府・文部省は、それを改善することなく、科学技術立国の名のもとに大学院生数のみを拡大し、競争を煽っているため、専業非常勤講師予備軍たるオーバー・ドクターが大量化して、院生にも将来不安・虚無感を醸し教育・研究の効果を下げている。
現在、18歳人口激減のなか、政府の私学助成・教育予算の削減は、大学の財政基盤をかつてなく悪化させ、大学を様々な生き残り策だけを考える方向に走らせている。このため大学構成員の権利や社会的公正の観点からとうてい容認できない「改革」が増加し、非常勤講師などが真っ先に切り捨てられていることは見過ごすことの出来ない事態である。 大学が一部私企業と同様、営利維持だけのため、なりふりかまわず構成員の権利を踏みにじり、社会的公正の原則を無視するならば、それは次の世代を育成すべき高等教育機関として自殺行為を意味するであろう。 非常勤講師をはじめとする不安定身分にある同僚の権利をどれだけ守れるかは、大学改革の試金石と言うべきである。
当面、各大学における専任教員枠の拡大とともに、非常勤講師制度について次の改善がなされるべきである。
1)文部省自身による、正確な全国的実態調査と非常勤講師制度の明確な位置づけの公表。
2)雇用安定化のため、契約内容の明確化と雇用保障(正当な理由のない「雇止め」や一方的なコマ 数減の禁止、留学・出産・育児休暇の後の再雇用など)。
3)労働条件改善のため、賃上げ、賃金体系明確化、ボーナス支給、交通費完全支給と健康診断など 福利厚生制度への編入。
4)教育・研究条件の改善のため、カリキュラム作成過程への参加、非常勤講師用研究室の設置と 控室の整備、大学紀要への執筆権や大学図書館、印刷機器の使用権の確認。
5)専任教員への採用促進

日本科学者会議は、政府、文部省、各大学に対しこれらの政策の確立を要求すると共に、大学人に対しては、大学の一員としての非常勤講師の権利の擁護に最大の配慮を払われるよう訴えるものである。
1999年5月30日
日本科学者会議第33回定期大会


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