教育職員養成審議会答申「教員の資質能力の向上方策等について」に関する見解と関連 法案の国会提出の中止をもとめる声明

 

 

 去る1218日教育職員養成審議会は,文部大臣に対し 「教員の資質能力の向上方策等について」という答申を提出した.政府は,この答申を受けて,関連法案を間もなく国会に提出することを予定しているが,答申には以下に指摘するような多くの重大な問題点がふくまれており,国民的合意も得られていないので,この答申にもとづく関連法案の国会提出を中止するようつよく要望する.

1. 答申の内容は,自民党の教員政策(1981年「教員の資質向上に関する提言」,1983年「教員の養成,免許等に関する提言」など)や,それにもとづく臨時教育審議会(臨教審)第二次答申(1986423日)の「教員の資質向上の方策」(第2部第3章第3節)と基本的に同じであり,それらに無批判に追従したものである.
 それは,戦後初期に成立した民主的な教員養成・免許・採用・研修制度の全面的改変を遣る,まさに,戦後教育総決算の教員政策版とみなされる.

2. 教員の普通免許状を学歴別・行政研修歴別に区分し,「専修免許状」(大学院修士課程等),「標準免許状」(学部卒業等),「初級免許状」(短期大学卒 業等)の三本建てにすることは,本来,対等・平等であるべき教員を免許状別に階層化し,教員相互の協力や子どもや父母の教員に対する信頼感を損ない,ひいては教育効果を低下させるものである.

3. これに関連し,研修,とくに行政研修を免許上進=昇進と結合させる制度は,本来自主的・自発的であるべき教員研修をゆがめ,教員の力量の根幹となる教 育者としての主体性の形成をあやうくするものである.
 また,一定の教職経験を経て免許が上進する現行制度の廃止案にみられるように,行政研修を価重し,現職経験による力量向上の方途を軽視することとなる.

4. 教員免許状取得の最低修得単位数(免許基準)の大幅な引上げ(小学校は現行「1級」48単位「標準」59単位,中学校は「一級甲」54単位・「一級 乙」46単位「標準」59単位,高校は「二級甲」54単位・「二級乙」46単位「標準」59単位など)は,大学の教員養成カリキュラムの自治・自由を 制約し,とくに一般大学・学部の開放性教員養成を困難にし,その形骸化をもたらすことは必然である.

5. 大学の教職専門科目の全面的改変を打ち出し,とくに学習指導要領に即応したカリキュラム編成や特定の立場の「生徒指導」の開設などを提案しているが, それは,大学の教育内容に対する制度的介入・統制であり,学問の自由,大学の自治を侵害するものといわざるをえない.

6. 専修免許状と大学院,とくに新構想大学院と結合する制度は,教員養成の大学間格差を導入,拡大し,新構想大学院を頂点とする新たな教員養成・管理シス テムをつくりだすこととなるであろう.

7. 社会人を教員として採用するために,特別免許状,特別非常勤講師および一年間の教職特別課程の創設を唱えているが,それらは,子どもの教育を受ける権 利の保障のために重視されるべき教職の専門職性と基本的に矛盾している.とくに,特別免許状,特別非常勤講師の制度は,大学における教員養成という原則に反するものである.

8. 初任者研修制度(新任教員を1年間,条件付採用とし,学級・教科・科目を担当させながら,指導教員のもとでの研修を義務づける制度)は,事実上,新任教員の見習い制度=試補制度であり,とくに服従心の注入が主眼とされている.このように,新任教員を公然と制度的に半人前扱いにすることは,子どもや父母 の教員に対する信頼感を損ない,新任教員を徒らに萎縮させ,かえって真の力量向上を阻むことになる.また,法的には,新任教員の教育権限(学校教育法28 条6号),自主研修権(教育公務員特例法1920条)を侵害するものであり,教育活動に対する「不当な支配」(教育基本法10条)となるおそれがある.

9. 答申に示される教員政策は,全体としてみると,免許状の階層化(学歴別三種の普通免許状,特別免許状,無免許)と初任者研修の制度化により,教員の上 台下服関係を強め,教員の生涯を行政研修によって丸ごと管理し,教員の養成段階からその国家統制を強化するなど,まさに,教員管理体制の総仕上げという性 格をもつものである.それは,「教員の資質能力の向上」に名をかりた徹底的な「資質能力」の統制策であり,「第三の教育改革」をめざす臨戦審=教育課程審 議会の求める教師づくりであり,とりわけ「日本人としての自覚」を子どもに注入する国家に忠実な教師づくりの手段となりかねない.

 

 父母・国民は,子どもの人格・人権を大切にし,真理真実に貫かれた教育に.よって,その可能性を豊かに発進させる教育的力量を備えた自主的主体的な教師を切望している.そのためには,教員の教育・研修活動の自主的権限を最大限に尊重し,その力量が十分に発揮できるように教育条件や教員の労働条件を抜本的に改善し,また,大学の教員養成教育の自治的発展を保障することなどが,とくに望まれる.臨戦審=教養審の教員政策は,これらの内容,方向とはまったく逆行するものといわざるをえない.

19871228

日本科学者会議大学問題委員会