*福島原発問題について([[科学者の眼]]) [#s3f0e7e7]

文責:[[エネルギー・原子力問題研究委員会:http://www.jsa.gr.jp/commitee/genshi.html]]

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**<解説1>易しい原子炉の話 [#rd055718]
 事故の説明をする前に、簡単に原子炉の説明をします。図1と2には、福島第一原子力発電所1〜4号機の原子炉の様子が示してあります。これらの原発は大変古いタイプでマークI型と呼ばれ、「だるま」のような格納容器とその下にドーナッツのような圧力抑制室を持っています。格納容器の中心ある筒形のものが圧力容器で、原子炉本体とも呼ばれます。図3は、圧力抑制室の形がやや異なるタイプの原発(マークII型、その働きは同じ)ですが、この図を使って発電の仕組みを説明します。巨大な湯沸しです。原子炉(圧力容器)の中心には核燃料(金属の被覆菅にウランを詰めた燃料棒)の束からできている炉心があり、炉心では核分裂反応が起こって膨大な熱が発生しています。百万キロワットの原発では運転中は発電電力の3倍、300万キロワットの熱が発生します。1キロワットの家庭用電熱器300万台分です。炉心の熱で圧力容器内の水は熱せられ300℃近い蒸気となってタービンに送られ、発電機を回して発電します。圧力容器の中は70気圧程度の高圧(酸素ボンベなどと同じ程度)になっています。圧力容器の中の水はこのようにタービン駆動の役割とともに、炉心(燃料棒)を冷却して必要以上に温度が上がることを抑える役も果たすので冷却材(冷却水)と呼ばれています。(舘野、2011.3.19)
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図1 原子炉圧力容器、格納容器、圧力抑制室、燃料プール(「朝日新聞」2011年3月18日)
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図2 格納容器(マークI型)(出典:豊田正敏他著『原子力発電技術読本』オーム社 1970)
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図3 原子力発電の原理(出典:「福島第一原子力発電所」東京電力 2010.11, p1)
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**<解説2>何が起きたのかー冷却水が失われて炉心が損傷 [#b7de9c52]
 3月11日午後2時46分地震が発生すると、地震センサーが働き制御棒はいっせいに炉心に挿入されました。この自動挿入をスクラムといいます。これによって核分裂反応は止まり、原子炉は停止しました。電熱器などではスイッチを切ればすぐ発熱は止まります。ところが原子炉の場合、核分裂が止まっても炉心からの発熱は止まりません。炉心に蓄積している膨大な放射能(核分裂性生物)から放射線が出てこれが熱になるからです。この熱を崩壊熱と呼びます。崩壊熱は、10秒後には6%(18万キロワット)、1時間後には1.8%(5.4万キロワット)、1日後には0.8%(2.4万キロワット)、10日後には0.2%(6000キロワット)と、次第に減少します。もしこの崩壊熱を除去しないで放置すると炉心の温度が上がり炉心損傷に至ります。したがって通常の運転では原子炉停止後、数日は冷却水を循環させて炉心を冷します。このとき原子炉に付随する発電機は止まっているので、外から送電線を引いてきた電気(外部電源)でポンプを回して冷却水を循環させます。ところが今回の地震では外部からの送電が(送電線が切れるなどして)停止したため、緊急用のディーゼル発電機を動かして、1時間ほど炉心の冷却が行われました。ところがそこに大津波が来てディーゼル発電機も止まってしまいました(地下にあったディーゼル発電機が水をかぶったためとも、燃料のタンクが壊れたためとも言われています)。外部からの電気もダメ(外部電源喪失)、ディーゼル発電機もダメで電源はまったく失われ(ステーション・ブラックアウト、発電所の停電)、循環や注水用のポンプは回せなくなり、炉心の温度がドンドン上がっていきます。温度が上がると冷却水は蒸発してなくなり、水位が下がって炉心は露出しいわゆる「空焚き」状態になります。そうなるとむき出しの炉心の温度はさらに上がります。
~ 通常、被覆菅の表面で300℃程度であった燃料温度は毎秒5〜10℃の割合で上昇し、1000℃、2000℃という信じられない温度になります。ジルカロイという合金でできている被覆菅は1000℃近くになると水と反応して、被覆菅の表面は酸化され、同時に水素が発生します。この反応によって炉の温度はさらに上がります。また燃料棒の内部に詰められたガスの圧力のため、被覆菅は膨れ破断を起こします。また酸化したジルカロイは脆くなっているため、水の注入などがあるとばらばらに壊れ、更なる注水を妨げます。(このため緊急用炉心冷却装置(ECCS)の安全審査基準では被覆菅温度が1200℃を越えてはいけないことになっています(もちろん今回の事故は越えました))。(このあたりの経緯は、舘野淳著「廃炉時代が始まった」朝日新聞社2000年を参照。)
~ 一般的に言って、配管が破断するなどして冷却水が漏れ出し、原子炉が空焚きになる事故を冷却材喪失事故(loss of coolant accident, LOCA)と呼び、軽水炉に典型的な事故です。今回の事故のきっかけは配管破断などではなく地震ですが、その後の経緯はまったく冷却材喪失事故経過をたどっており、冷却材喪失事故と呼んで差し支えありません。
~ 冷却材喪失事故では、炉心の温度が上がるにつれて圧力容器内部の圧力も上がります。その場合、破断が小さくて炉内の圧力が高いと緊急用炉心冷却装置(ECCS)の水が中に入らず、かえって終息が困難であるといわれてきましたが、今回の事故でもはやはり圧力が下がらず注水が困難であると報道されています。今我々の前に展開されているのはこの冷却材喪失事故の悪夢です。炉心を冷せるかどうかが勝負です。この先どうなっていくのでしょうか。(2011.3.19)
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**<解説3>スリーマイル島原発事故との比較 [#f50ea4f7]
 1979年3月28日米国スリーマイル島原子力発電所2号機で発生した事故は、事故の深刻さ(国際原子力事象評価尺度で同じレベル5、ただし福島の方がより深刻でレベル6に上がるかもしれません)、軽水炉の典型的な事故である冷却材喪失事故で炉心が損傷した点などを考えると、大変よく似た事故であり、事故発生の当初からこのスリーマイル事故を参考にすれば、事故の拡大より少なかったのにと思うと、残念です。
~ 先ずスリーマイル事故の経過を簡単に述べましょう。3月28日午前4時0分事故発生(原因は多数ある給水装置のポンプの一つが停止するというほんの些細なことから始まりました。運転員の誤判断、誤操作などがあって、事故はどんどん拡大し、6時50分ごろには敷地内で高レベルの放射線が検出され、炉心の2/3が露出しました。この辺の事情は福島事故とは直接関係がないので、省略します。)7時ごろ一般市民に対する緊急事態が宣言されます。午後1時50分建屋内で水素爆発。事故のニュースは流されるのに、市民への指示がまったくなされなかったため、大混乱が生じます。翌29日当局は市民を避難させることをためらいました。8時1分敷地上空で12ミリシーベルト/時の放射線を検出、0時30分ペンシルベニア州知事は半径5マイル(9km)内の妊婦と未就学児童の避難を勧告、3月31日水素爆発の危険が高まります。4月1日カーター大統領が視察、この頃から水素の発生も収まり水素爆発の危険も去ります。
~ 事故発生直後大統領直属の事故調査員会が発足(ケメニー委員会)事故の要因、今後のあり方などについての報告書を発表しました(ケメニー報告書)。今読んでも多くの教訓を含んでいます。その中で事故の最大の原因は「思い込み(マインド・セット)」であると述べています。このような「大津波は来るはずがない」「非常用電源は壊れるはずがない」という思い込み、今でもよく当てはまりますね。
~ 図4は事故から数年して原子炉を解体して炉心内部の様子を調べた際のものです。燃料棒、制御棒、その他の炉内構造物が溶けて原子炉圧力容器の下の部分にたまっています。(2011.3.19)
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図4 スリーマイル原発の溶融した炉心(出典:『Nuclear Technology』American Nuclear Society Vol.87, 1989)
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**<解説4>今後どうなるか [#f841ea6e]
 <解説2>で述べた福島原発の事故の経過に戻りましょう。繰り返すと、大きな地震動で制御棒は炉心に挿入され核反応は止まりました。しかしその後も続いて発生する崩壊熱を取り除くため、ポンプを回さなければなりません。回すための電源は外から送電線で送られてきますが、これが地震のため切断されてしまいました(外部電源喪失)。非常用のディーゼル発電機が起動してポンプは回り1時間ほど炉心を冷却しましたが、大津波によって非常用ディーゼルは動かなくなり、全ての電源が失われました(ステーション・ブラックアウト)。冷却水も循環できず、非常用炉心冷却装置(ECCS)からの注水もダメです。温度上昇のため、炉内(圧力容器内)の冷却水は蒸発して炉心が露出します。燃料棒の温度は1000℃を超え、放射能が圧力容器内部に充満します。炉内の圧力も上昇します。(ここまでが<解説2>で述べてきたところです。)
~ 炉内の圧力が上がると自動的に弁が開いて、炉内の蒸気(+放射能+発生した水素ガス)を格納容器内に噴き出します。直接噴き出すと格納容器内の圧力が上がるので、いったん下部にあるドーナツ状の圧力抑制室内の水に吹き込みます。すると蒸気は凝縮して体積が大幅に減ります。それでも原子炉からの噴き出しが繰り返されると格納容器内の圧力が上がり、放射能レベルも高くなり、水素濃度も増えます。設計で予定された圧力を超えて、格納容器が壊れてしまわないように、格納容器の放出弁を開いて中のガス(放射能)を環境に放出(ベントと呼んでいます)します。水素ガスはいつの間にか格納容器を抜け出し(この経路は現在不明ですが)、軽いので原子炉建屋の天井にたまります。空気中の水素ガス濃度が4%を超えると爆鳴気となり(中学・高校の化学の実験で行うあれです)、ちょっとした電気火花などで水素爆発を起します。
~ ちょっと寄り道になりますが、事故対応中は東電を批判すべきではないという意見もあるようですが、事故の説明の流れの中であえて問題を提起したいと思います。スリーマイル事故を見ても明らかなように、大規模な冷却材喪失事故時には必ず水素ガスが発生します。私はテレビをみていて、そろそろ水素爆発が起きる危険がある頃だがどんな対応を取っているのだろうか、と思っていました。水素は建屋上部に集まるので、建屋に孔を空ければ避けることは出来たはずです。今回はそのような措置も取られず、1号機13日、3号機14日と爆発して建屋が壊れてしまいました。2号機は建屋の壁に穴があり爆発を免れましたが、圧力抑制室あたりで爆発があり、格納容器が破損したようです。4号機使用済み燃料プールで温度が上昇し、火災・建屋の損傷が起きていますが、このあたりの事故の経緯・原因は十分には分かっていません。
~ 今後のことですが、崩壊熱は次第に減っていくので、これを取り去ってやれば、つまり有効に冷却できれば終息に向かいます。その意味では、冷却材喪失事故は崩壊熱との戦いです。その上で放射能を閉じ込めることができるかが問われています。原子炉事故への対応は「〇澆瓩襦↓⇔笋后↓J弔弦める」といわれていますが、今回は,論功、◆↓が失敗しました。冷却がうまくいって終息するか、うまくいかないで炉心の温度がさらに上がり、スリーマイルの状態を超えて、圧力容器の底が破れて溶けた炉心が落下して、水と触れて水蒸気爆発を起したり、再臨界といって再び核反応が始まるようになるのか、事態は依然として予断を許さない面があるようです。ただし、悪い方向に向かっても、チェルノブイリのように炉心の一部が爆発・火災を起して炉内の放射能の何割かが環境に放出される事態にはならないと思います。(2011.3.19)
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**<解説5>予言されていた事故シナリオ―NUREG-1150 [#v39a84d0]
 1990年に米国のNRC(Nuclear Regulatory Commission 核規制委員会)は「シビア・アクシデントのリスク」(NUREG-1150)という名前の報告書を発表しました。これは確率論的リスク評価という手法を用いて、米国に実在する5つの原発についてシビア・アクシデント(過酷事故)どのくらいの確率で発生するか分析したものです。事象がどのくらいの確率で来るのか、部品の破損の確率はどうか、安全装置の動かない確率はどうかを推測して、これらを掛け合わせて最終的に炉心溶融の起こる確率を計算したものです。紙と鉛筆を使った机上の計算で当てにならないと批判する人もいますが、確率の絶対的な値はあてにならないとしても、相対的にA事象よりもB事象が起こる可能性が高いというような結果はある程度信頼できるのではないかと思います。この報告の中で、地震発生→制御棒挿入→地震により送電線の碍子が壊れて外部からの電源喪失→非常用ディーゼル発電機の立ち上げに失敗→温度上昇による炉心損傷というケースがおきる割合が高いという結論が提示されています。恐ろしいほど今回の事故の展開に良く似ています。発電所全体を1000年に1度の地震から守るのは不可能でしょう。しかし非常用電源であるディーゼル発電機とその燃料タンクを守ることは、ある程度お金をかければできることです。東京電力が十分このレポートに学んでいれば今回のようにならなかったのにと考えると、返す返すも残念です。(2011.3.19)
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**<解説6>いくつかの懸念 [#c792dc41]
,泙發覆電源が回復して、水が注入できれば事態は好転するという見方がよく報じられています。しかし緊急炉心冷却系(ECCS)の安全審査基準に、被覆菅温度が1200℃を超えると、ジルカロイの酸化が進み大変脆くなってECCSの注水があると、熱衝撃で被覆菅がばらばらに壊れて、水の流出口につまり炉心が冷えなくなる、という項目があります。その辺のところは考えてはいるでしょうが、電源が回復したからといって、あわてて注水してよいかどうかは疑問です。
~高放射線下の作業について。私事になりますが、昔、僅かな放射性物質を扱って実験したときは、普通の実験に較べて緊張するせいか、帰宅してからぐったりくたびれたことを思いだします。それほど放射線下の作業は心理的ストレスを伴います。放射線に気を取られると、その分だけ注意がそがれ、作業の危険性も高まります。現在の作業に事態終息の期待がかかっているわけですが、作業中の無事を心からお祈りする次第です。(2011.3.19)

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