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『原発安全神話と原子力ムラを批判し崩壊させよう』まえがき


 2012年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故は、大量の放射性物質を環境に放出し、土地・水・空気などの環境を汚染し、住民のいのちとくらし(衣食住)に多大なる被害を及ぼした。そのため、筆者は、原発サイト内のシステム的な事故・故障を意味する「原発事故」というよりは、それが原発サイトの外部に与えた損害と影響が未曽有の災害規模であるため「原発災害」というのが妥当であると考える。本稿で筆者が「福島原発災害」と言うゆえんである。
 福島原発災害を見て、国民の大多数は、それまで原発推進者たちの言ってきた「原発安全神話」はまやかしであり、むしろ原発に批判的な人々の「原発は危険である」と言う考えの方が正しかったことを知った。その後、マスコミ等では、「原発安全神話は崩壊した」とする表現が多く見られるようになった。しかしながら、政府・財界・電力事業者らは、福島原発災害発生の責任をとることも反省をすることもなく、原発の再稼働に向けて巻き返しを強めるようになってきた。そのような反動を見て、国民の多く(増加する若者や女性)は、相変わらず非科学的な原発安全神話が全く崩壊していない現実に失望し、「原発安全神話」を形成してきた「原子力ムラ」や「御用学者」らの権力側に対して怒りをもって原発をなくす運動を強め拡大するようになってきた。彼らの失望や怒りは、単なる感情の表れではない。彼らは、原発推進者たちよりずっと科学的な根拠をもって「原発をなくす」ことを望んでいるのである。
 日本科学者会議(以下、JSA)は、昨年(2011年)東日本大震災問題特別委員会と原発問題WGを設置し、前者では災害発生の原因と経過ならびに復興・復旧に関わる問題を、後者ではJSAの原発問題に取り組む基本的な方針を検討してきた。
 筆者はその両方の委員として、福島原発災害が発生した技術的要因と社会的要因の検討を担当してきた。特に、社会的要因である「安全神話と原子力ムラ(原発利益共同体)」の検討に力点を置き、それらの形成と崩壊について科学的な批判と提言を試みてきた。本稿は、その結果をまとめ、今年(2012年)8月に敦賀市で開催された第33回原子力発電問題全国シンポジウムの基調報告として発表したものである。(その後、一部追加・修正を加えてある。)
 本稿の目的は、安全神話と原子力ムラを崩壊させ、原発(軽水炉ともんじゅ)の再稼働を許さず、すべてを廃炉とさせるための科学的な議論を踏まえて若干の提言を行うことにある。
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