JSA

「新しい歴史教科書をつくる会」主導の歴史・公民教科書申請本の非科学性・非民主性を憂慮する声明

現在、「新しい歴史教科書をつくる会」(西尾幹二会長、以下「つくる会」)が主導して編集された中学校社会科の歴史・公民の教科書申請本(以下申請本)が文部省の検定を受けており、もし合格すれば、2002年度から使用されることになります。この申請本をめぐっては日本国内のみならず韓国や中国などからも厳しい批判の声が上がっており、今後アジア諸国等外国との友好関係を築く上でも重大な障害をもたらす恐れがあります。
 「つくる会」の人びとは、1990年代半ばから、現行の教科書を「自虐的」と批判し、従軍慰安婦や南京大虐殺など侵略戦争における日本の加害行為の教科書における記述を削除するよう求めてきました。のみならず、今回、「自前」の教科書の検定合格・採択を目指しているのです。
 教育に用いる教科書を所定の手続きを経て発行する権利自体は基本的にすべての人に認められています。しかし、日本の義務教育で使用する教科書である以上、日本国憲法・教育基本法を尊重すること、また真実をゆがめず正しく記載することは最低限必要なことです。ところが「つくる会」主導の歴史教科書申請本は、歴史は科学ではないと明言し、神話と歴史とを混同させて、神武天皇即位の日を「太陽暦になおしたのが2月11日の建国記念の日」とするなど、極めて非科学的な記述をしています。また日本の侵略戦争を「大東亜戦争」と呼び、この戦争は「アジア解放の戦争」であって、「大東亜共同宣言」(1943年)は国連総会の「植民地独立付与宣言」(1960年)と同趣旨であったとさえ記して、侵略を正当化しています。
 「つくる会」主導の公民教科書申請本は明治憲法も立憲君主制であったとし、「第二次世界大戦後、憲法が変わっても天皇のあり方には大きな変化はなかった」などとしています。さらに憲法改正論をことさらに強調し、また核抑止論を展開して「核兵器廃絶は絶対の正義か」と核兵器廃絶の主張に否定的な見解を提示しています。
 「つくる会」はこの2つの申請本採択のため、KSD汚職で逮捕された小山孝雄被告・元参議院議員の援助を受けるなどして全国的に運動を展開しており、教科書の採択にあたって現場教師の意見を聞かないようにという請願書を各地の議会へ提出し、かなりの数の議会でこれを採択させています。
 この2つの申請本には100カ所以上の検定意見がつきましたが、「つくる会」側はこれを受け入れたと伝えられています。しかし、字句の修正があっても、申請本の基調は変わらないと予想されており、検定合格の可能性が高いといわれています。
 もしこのような教科書が各地の学校で採用され、事実をゆがめ、日本国憲法・教育基本法に反するような教育がおこなわれるならば、21世紀を担う若い世代に非科学的な知識をうえつけ、日本の民主主義はその土台を脅かされ、そして日本は再び戦争をする国になり、国際的に孤立するようにならざるを得ないでしょう。私たちはこのような事態を招くことを深く憂慮し、これらの申請本が教科書として採択・使用されることのないことを強く求め、ここに声明します

2001年3月4日
日 本 科 学 者 会 議


「見解と声明」一覧へ

トップへ戻る